Masukーーこの世界を作り上げた森羅万象の神、理王(りお)は悲しんだ。 世界に変化をもたらした人間がいつの日か悪魔の王を破壊してくれると願い、自身が持つ"陰"と"陽"の力を混界に残したのだが、その力は悪き心を持つ者の手に行き渡る。 託した想い(力)が、反対に世界の破滅へと導かれてしまう。 神であろうと混界に行く事の出来ない理王(りお)は、取り返しのつかない自分の過ちに心を痛め苦しんだ。 ーーこのままでは、今まで変化を重ね成長してきた混界の世界が消えてしまう。 後悔する理王(りお)は、別世界を見通す鏡を覗きながら、そうならない様に祈る事しか出来なかった。 そんな理王の姿を見ていた者達が2人居た。 2人は理王(りお)の子供達である。 1人は兄のヴィサリオン。世界の時間の流れを視る神であり、未来の選択肢を無数に見通す力を持っていた。 もう1人は妹のアナリセウス。彼女の耳は魂の囁きを聴き、心の奥底に隠れた感情の真実を知る事が出来る。相手の心を読む事が出来る神である。 ヴィサリオンとアナリセウスは親である理王(りお)に内緒で、自分達の力を人間達の居る混界へと解き放つ。 悪き心を持つ者を討つ為に、人知れず自分達の力を混界で生きる誰かに託したかったのだ。 そしてその力を最初に手にしたのは1人の女性である。 その女性は竜の民と呼ばれる種族の娘ヒスイであり、ヒスイはヴィサリオンと同じく未来を見通す力を生まれながらに持っていた。 しかし、ヒスイは約20年前に死した。 悪き心を持つ、ベリエルという男に殺されたのだ。 ヒスイが殺された事によりヴィサリオンの力は再び混界を漂い、そして再び行き着いた。 その行き先はヒスイの息子であるグレン(ルーファス)である。 ヒスイの未来視の力はヴィサリオンの物であり、その力は人知れず息子であるグレンに受け継がれたのだ。 ヴィサリオンの力が受け継がれたその後、今まで誰にも宿らなかったアナリセウスの力がある女性の肉体に宿る。 その女性の名前はミーナであった。 ミーナの読心の力は今まで謎に包まれていたのだが、本当は神の力なのであった。 未来を見通す力と、心の奥底を読む力。 2つの力を持つ者達が力を合わせる事で、理王(りお)の力をも超える可能性があった。 しかし今現在、その力を
「…まだ立つのか?」あれだけの攻撃を受けても立ち上がるミーナを見てしぶといと思う一方、言葉が出るのに少し間があった。「…もう力の差は分かった筈だ。ミーナ、お前は確かに強くなった。それでも、俺には敵わない。」「諦めろ。…さっさと、負けを認めろ。」「認めない!」グレンの言葉を遮る様にミーナは言い返す。「私は、グレンの話をちゃんと聞きたいの!」「話?今更、何を聞くつもりだ?」「色々聞きたい事はあるけど、1番聞きたい事だけを聞くわ。グレン、あなたは世界の人達を根絶やしにするって言ったわよね?」「ああ、言った。それがどうした?」「何の為に?あなたが言う"腐った人間"を全て殺せば世界が良くなるの?それとも、ただ単純に恨みを晴らしたいだけ?」「今のグレンは目先の事しか考えていない。怒りの感情に任せてるだけの、先を見据えたビジョンがまるで無い。ただ壊したいと、我儘を言ってるだけにしか聞こえない!」「そんな事しても世界は良くならないし、ライクが言った様にあなた自身も報われる事は無い!」世界の人達を殺す事で解決しようとする考えを真っ向から否定するミーナ。「…じゃあ、話し合いをすれば解決するのか?」そう答えるグレンに対し、ミーナは返答するのに時間が掛かる。「………それは、話してみないと分からない事だと思う…。」「いや、話し合いなんて意味がない。それで解決するなら、戦争なんて起きはしない。」今度はグレンがミーナの言葉を否定した。そして続けて口を開く。「この世界にはな。話し合いの出来る人間と出来ない人間がいる。出来ない人間が国のトップになるから、戦争なんてものが始まる。」「全員が、お前みたいに話し合いで解決出来る訳じゃない!いい加減、現実を見やがれ!」最後に感情任せにそう言ったグレンの叫びは、彼が経験してきた辛い気持ちの叫びでもあった。国同士の戦争とは、対話では解決しない問題を戦争という暴力で解決しようとする愚行。命の重さを知らない人間が軍事力という力を得た為に起こされる、迷惑極まりない世界を巻き込んだ喧嘩なのである。愚かな国のトップを対話で変える事は出来ない。ならば、力で滅ぼすのみ。そう考えたグレンは、北の大国と世界の腐った人間を滅ぼす事が平和に繋がると考えたのだ。しかし、それに対してミーナは。「…確かに、戦争は国同士の複雑な問題。戦
圧倒的な強さであった。3人がやられる姿を見ていたミーナは、目の前のグレンを見て改めて思い知らされる。「(…3人がこんなにもあっさり…。)」分かってはいた。分かってはいたけど、まさかここまで…。ーー私達は、強くなる為に沢山修行してきた。北の大国との戦争だって、皆んなちゃんと生き残れた。ーー強くなったって、その成果を皆んな実感していた。ーーなのに…。目の前でネルとライクとニケルを一瞬で倒したグレンを目の前に、その努力は無駄だったと言われているみたいであった。ミーナはそう思うと、いつの間にか刀を持つ手が震えていた。その様子を見ていたグレンは、ミーナを見て言った。「…お前、その刀…。」ミーナが持つ刀に見覚えがあるグレン。そう。グレンはミーナの父親であるアガレフの弟子である為、アガレフの刀である煌光心(きこうしん)をよく知っている。アガレフが死んだ事を知らないグレンは、何故ミーナが持っているのか分からなかった。刀の事を聞かれた事により、ミーナは父親の事を思い出すといつの間にか震えが無くなった。ーーお父さん。…そうね、ここで怖気つく訳にはいかない。これは、私が選んだ事なんだから!まるで死んだ父親が心を落ち着かせてくれているみたいであった。そして父親を思い出す事により恐怖心が無くなったミーナは右手で刀の柄を持ちながら言った。「…これは、私の死んだお父さんが私に託した刀。煌光心!この煌めく光の心が、あなたの復讐を断ち切る刃(やいば)となる!」死んだお父さん。それを聞いてグレンは理解した。「(そうか。…ミーナがその刀を持っているという事は、呪いが発動したのか。そうまでして、娘に会いたかったのか。)」グレンはアガレフから[愛反する呪い]について聞いている為、ミーナが刀を持っている事からその時の状況を察した。ーー今の俺には…関係無い。「…お前の剣術がどんなものなのか見てやる。最初は手加減してやるよ。今の俺とお前とじゃ、戦いにすらならないだろうからな。」あの時、レミールでミーナに修行のアドバイスを出していた時と同じ様に、グレンはミーナにハンデをあげようとした。(第22話参照)「俺はこの場から動かない。黒炎も使わない。だから、好きな様に掛かって……」その刹那。グレンの左肩から縦に掛けて斬り傷が出来、その斬り傷から血飛沫が飛んだ。光の速度
それから各々、これからの動きについて再確認した。まず、グレンが待つ竜の遺跡に行くのはミーナ、ネル、ライク、ニケル。この4人は日が変わる時間に出発する。カイル、エミル、フィナ、ギンジ。そしてグロードは現在戦闘不能の八握剣(やつかのつるぎ)に代わり、北の大国が隠し持つ魔導兵器に備えてノームで待機。そしてアルバスとロゼアは再び地下牢へと連れて行かれる事となるだろう。話し合いが終わり、全員が動き始めようとするとライクがグロードの所へ行く。「グロード。…さっきは、殴ってすまなかった。」ライクは怒りに任せて殴った事をグロードに謝罪した。「良いんだ。ライクのお陰で、改めて自分を戒める事が出来た。逆に感謝する。」グロードは優しくそう言い、先程殴られた事に対しては気にしていない様子であった。「…あの。」するとライクの後ろから彼を呼ぶ声が聞こえる。「ん?あんたは北の大国の…。」「はい。ロゼアと言います。」話し掛けてきたのはロゼアであった。「さっき、あなたはグレンという男の事を思って怒っていましたけど。その、グレンとはどういった関係なんですか?」「関係?そんなもんねえよ。会った事もねえし。」「会った事もない?それなのに、どうしてそんなに怒れるんですか?」不思議で仕方なかった。見ず知らずの人の為にそこまで怒れる理由がロゼアには分からなかった。分からないが為に、その真意が気になったのだ。「言葉で説明すんのは難しいけどよ…何だろうな…。」「グレンって奴のされてきた事を俺に置き換えたらどう思うか。そう考えたら辛かっただけだ。」「会った事も無いし俺の勝手な想像だけどよ、俺はそうやって自分に置き換えて人の気持ちを考える様にしてんだ。間違ってても良い。分かろうとする気持ちだけでも、相手と理解し合える一歩に繋がんだよ。」ライクの言葉にロゼアはエミルに言われた事を思い出す。「直接的な解決にならなくても、あんたがそうやって言い続ける事で必ず誰かが理解してくれる筈だよ!私も、今回の事であんたの辛い気持ちが少しだけ分かったわ!」「それに、自分の気持ちを誰かに打ち明ける事で自分に掛かる負担も減るわ!1人で抱えてた物が分散されるから、気持ちも軽くなるの!無駄な事なんて、絶対に無いわ!」言い続ける事で必ず誰かが理解してくれる筈。自分の気持ちを誰かに打ち明ける事で自
ネルの空間移動で全員東の大国の城に転移した。現在この城は北の大国との戦争で負傷した者達を治療する救護所の様になっていた。この国の人達は既に他国へ避難誘導は終えている為、建物の被害に比べると人的被害は最小限に抑えられている。しかし、先行部隊とはいえ特殊特攻部隊との戦いによって数多くの負傷者が居た。八握剣(やつかのつるぎ)のメンバーはギンジ以外全員が負傷していた。バンジョウはラーケウスの毒に犯されていたが、体内の毒素を早急に取り除いた為、しばらく身体を休めれば元の状態に戻るそうだ。ゴウシ、ルキア、ヒナタ、クロツチはロゼアの痛み共有(シェア・リンク・ペイン)で多数の銃弾を受けた事により、意識は戻ってはいるものの安静が必要な状態だ。スイゲツに至っては、意識は取り戻したもののロゼアが首を刺した事により腕に麻痺が少し残っている。完全に治るかどうか分からない状態だった。現状、八握剣のメンバーはすぐには戦えない状態である。一方、フィナとライクとニケルは。「………おかわり!」「僕も!」机に座りながらガツガツと何かの丼ものを貪る様に食べていた。既に1人だけで10杯の器が重ねてある。彼らもラーケウスの毒を多量に吸っていた筈なのに、他の人達に比べると回復が早かった。寧ろ普通の健常者より元気そうな感じもする。「…ライク、ニケル。」カイルが呼びかける声にライクとニケルは気付き、箸を止めてみんなの方を見た。「おお、皆んな!無事で良かったぜ!」「本当に!皆んな生きてて本当に良かったよ!」ライクとニケルはそれだけ言うと、再び丼ものを食べ始めた。「…えっと、あんた達…。毒を喰らってこっちに運ばれたって聞いたんだけど…。」エミルは聞いていた情報と、目の前の光景とが合わない事に戸惑っていた。「なんか、月の民だから毒の治りも早いみたいよ。」近くのベッドで上半身だけ起こしていたフィナは呆れた様にライク達の補足をした。「!…フィナさん!もう大丈夫何ですか?」「ええ。私は鎧を砕かれただけで、致命傷になる様な傷は無いから大丈夫よ。」フィナもアルバスとの戦いにより負傷していたが、大きなダメージにはなっていない為、すぐに回復していた。東の大国は医療が発展しており、更に国中の医師達が集まっている為、適切な処置が迅速に行われていたのだ。その為、重症だった八握剣(や
時は少し遡る。ここは東の大国。そして、上空から突然、北の大国本隊の魔導戦艦が50隻現れた場面に戻る。上空は朝方の筈なのに、その50隻の魔導戦艦によって空に浮かぶ雲の様に覆い尽くされる。世界が絶望の色に染まったかの様であった。「何で…北の大国には、グロードさんが居る筈なのに…。」上空を飛行する魔導戦艦を恐怖に満ちた目で見つめながら口を開くミーナ。「…グロードさんが…あり得ないよ。少なくとも、肉体的に何かあったとは考えられない。」「カイルの言う通りだ。あの人がやられる訳が無い。あるとすれば……」ネルでも持っていなかった情報。それは魔導戦艦の隠してある場所である。魔導戦艦の性能を知っていたネルは事前にその事を全員に伝えていたが、肝心の隠し場所まではネルでも把握しきれなかったのだ。当然といえば当然。軍事国家に限らずどの国でも兵器の国外流出は命取りとなる。その為、兵器はより見つかりにくい場所に隠しておきたいものだ。「グロードさんでも、奴らの兵器の隠し場所は見つけられなかったのか……分身の僕に告ぐ。魔導戦艦で、奴らに魔導砲・アステリアを放て。」ネルは先行部隊が乗っていた魔導戦艦を奪取した分身達に向け、無線機で命令した。すると、上空に飛行する1隻の魔導戦艦が50隻の魔導戦艦に向けて魔導砲・アステリアを放つ。しかし、放たれた魔導砲・アステリアは50隻の魔導戦艦に当たる事なく、霧散し消えていく。そう。本隊の魔導戦艦は全て無効魔力機構(アンチ魔力システム)が働いている為、魔力を凝縮した高出力のアステリアであってもそれらの攻撃を無効にする。攻撃を無効にするだけで、同じ様に魔導砲・アステリアは放つ事が出来る為、今度は本隊の魔導戦艦が同じ様に魔導砲・アステリアを放った。そしてネルが奪取した魔導戦艦は呆気なく破壊される。魔法が通じない上に、破壊力のある力を保有する。魔法社会においてこれ程脅威になる事はないだろう。正に、人という罪深き存在が生み出した負の産物である。「……こうなったら、僕がやるしか無いのか…。」「おい、待てよ!幾らネルでもあの数相手は無理だ!」「僕以外に誰がやるんだ?取り敢えず、擬似・ブラックホールで魔導砲を止める事は出来る筈だ。」「そんなのいつまでも保つ訳ねえだろ!?」「じゃあ、このまま黙って見てれば良いのかい!?」カイル
今からおよそ10年前、ある国の悲劇によって世界中を恐怖させた。 その国は、赤い地獄ーレッドヘル。 昔は世界で一番平和で活気のある国だったが10年前の事件によって人はこの国に立ち入る事を禁止された。 そう、人はいない。 昔の事件の影響によって太陽は隠れこの国は年中黒い雲に覆われ冷たい風が街を吹き抜ける。 レッドヘルの中心部には一つだけ壊れていない小さめの建造物があり、その建造物はこの国の地下に繋がっている。 その地下には世間には知られていない場所があった。 地下の悪魔の住処ー通称(悪魔界) そこにはたくさんの悪魔が生存していて地下には建物や店が出回っていた。
「…ふわぁーーー…今日はなんだか疲れたなー。」 眠さで大きなあくびをするミーナ。 ロフィスの一件の後、グレンとミーナは町の外れにある綺麗な水辺の近くに寝泊まりすることにした。 「けどグレンの空間能力はすごいね。なんでも収納可能じゃん。」 テントや寝泊まりするために必要な道具はグレンの空間能力のポケットから引き出した。 「…そういや、エバルフさんが言ってた事ってほんとかな?」 ミーナはエバルフ達と別れる際に、エバルフからこんな事を聞いた。 昼間 ロフィスを倒した後、エバルフ達はグレン達の方に向かって一列に整列した。 「今回の件に関しては、紅の悪魔祓いの協力で獄
「エバルフさんの悪魔化が…解けたぞー!」 「「うぉぉぉ!!でかしたぞお嬢ちゃん!!」」 エバルフの悪魔化が解けたことで部下たちは喜び叫んだ。 グレンはミーナがエバルフの悪魔化を止めれた事を未だ信じられないのか唖然としていた。 「信じられんな…ただの人間が悪魔化を阻止するなど…」 (まったくだ…てめえですら悪魔化を阻止できた事ねえのによぉ) グレンの悪魔もグレンと同じくミーナの行動を感心した。 「…何てことだ…あの人間の悪魔化を…」 悔しそうな顔をしながらブツブツ独り言のように喋るロフィス。 そして一気に顔の表情を強面に変えて。 「よくも俺達の計画を…3年
「お兄ちゃん!助けてー!」 「待ってろ!すぐ助ける!…くそっ、騎士団より悪魔が多すぎる…」 理由は分からないが突如現れた悪魔の大群は町に現れ、たくさんの人々を殺戮していた。 俺はちょうど騎士団の仕事でこの町にいたので仲間と共に悪魔に対抗していた。 大半の悪魔は倒したはずなのだがどういう訳か悪魔は増える一方でエバルフ達は苦戦していた。 その目の前には妹が悪魔に取り囲まれていた。 「エバルフさん!悪魔が多すぎて我々じゃとても…」 「くそっ、団長がいればいいんだが今あの人は他の任務だからな。どうすれば…」 エバルフが悩んでると妹を囲んでいた悪魔が妹を切り刻もうと爪を振